彼がお店にやってきたのは1ヶ月も経たない前のこと。

若いのに酒飲みが好きでよく飲み歩いていたのだが

ある日、職場の先輩から

「キャンプ連れてくから道具揃えような！」

…と声をかけられこの道(キャンプ道)を進む事になった。

そんなある日、非番にどこで飲もうか？と

ネットを使いお店を物色している中で

とあるお店を発見した。







暗い路地裏にあり探さなければ

絶対に見つからないような隠れ家の様なお店

調べてみるとキャンプ狂いの夫婦が開業した

キャンプの夜をテーマにしたバルとの事

噂ではホテルバーで修行を積んだ

ベテランキャンパー夫妻が営む店との事だ。

生ビール500円 ジムハイ500円 レモンサワー500円

「なるほど…選ばなければ普通に安く飲めそうだ…」







店内には現在入手困難となっている

ハリケーンランタンの数々が各テーブルに

配置されその生火を見ながら食事と酒を楽しめるお店だとか

「これは間違いない！」と彼はその店の

ガタつくドアを開く事に…

「何か今の自分にとって有益な情報があるはずだ」

そんな思いを込めて真鍮製のドアノブを回す

開かない！汗

逆に回してみたら開いた。

なんだこのドアノブ？よく見てみると

矢印が手書きしてあり一方向にしか回らないノブの様だった。

ビンテージ感って奴 か な？







店内に入ると、そこにあったのは鮮烈な赤の

ランタンを始めとする

正にキャンプの夜そのものの景色

もしかするとキャンプ場の管理棟って

こんなだったりするのかなぁ？

そんな事を考えながら案内されたカウンター席を

今宵の特等席とした。

暖色の明かりが灯るカウンター席は

適度に薄暗く居心地の良さもなかなかのもの

意外にも気さくに話しかけてくるマスターらしき人に

この店に辿り着くまでのプロセスを話すと

出てくる出てくる

それは聞いた事のないキャンプの風景だった

「こいつらは生粋のキャンパーだ」







天気が悪かろうが雪が積もっていようが







365日キャンプをするためだけに働き

キャンプを生き甲斐として

シェーカーを振っているらしい


そんな彼らのキャンプの風景には

必ずシングルモルトと呼ばれる

少しだけいい酒が並んでいるではないか！

「ウィスキー好きの俺には持ってこいだ」

そんな確信と共にやって来たのは

楽しいキャンプの夜の様な

心地よい酔いだった。







そこは南相馬市原町区にある

本町バルDELISH LABOというお店。

仙台からやって来た夫婦が営む

最大客席40席ほどの小さなお店



彼はこの地元の出身だったが少年期札幌に引越しをし

今年、Uターンで戻ってきたという。

当時の友達はみんな福一原発の影響で

まだ戻ってきておらず友達が欲しくて

飲み歩きをしていたらしい。







キャンプもしたい友達も欲しい

そんなカスタマーの要望を叶えるのも

このお店の役割

早速、この店で働くスタッフY(イケメン)と

キャンプに行くようにアドバイスをした。

Yは相当におっちょこちょいで

お店では常連客から愛される

イケメンなのに斜め下な男子







私達とは過去三回のキャンプを経験し

先日地元の海辺で完ソロを決めたキャンプ歴4回の

まだまだ初心者。

一方M君はテントの購入はこれからということだったため

私の愛幕メガホーンIIを持たせ

日本一運の悪い男と評判のスタッフYに休みを与え

同行を命じた。

この二人の第1回キャンプは日山キャンプ場

そして第二回目の会場はというと

不動尊公園キャンプ場と決まった。







これから始まるのは…イケメン初心者キャンパー二人の

トライ&エラー上等というへっぽこキャンプの一幕である。

何せ、顔だけは格好いいがあらゆる部分で

何か足りないスタッフYと

顔も性格もかなり上等なキャンプ初心者M君の

珍キャンプである。







私たちが考えたのは楽しい失敗の数々を

経験し一つ一つ楽しみながらクリアして欲しい。

…ただそれだけ。

そもそもキャンプはある程度のスキルが身につくまでは

同程度の経験値のキャンパーとタッグを組んで

試行錯誤するのが一番楽しいもの。

失敗を糧に学ぶのが一番だと、そう思っている。

かつて夫婦二人がそうであったように

誰の力も借りず初心者同士で一つの目的を目指す。

その目的とはもちろん楽しむこと

経験値の離れたキャンパーに叱られながら

やるよりもよっぽど楽しめるはず…そんな目論見だった。





まず始めに彼らを襲ったエラーはこれだった。







下調べなしに行った昼食予定のお店が

閉まっていたこと。







二軒私が紹介した店が定休日ではなく

臨時休業という奇跡を目の当たりにする事に…笑

人から与えられた情報はある意味確実ではあるが

臨時というフロックには気をつけろ！

急遽、自らの腕とキャンプスキルだけで

昼食を準備する事を余儀なくされた二人

空腹を堪え、焚火に火を入れ予定していた昼食を

キャンプ飯で補う事に…







秋鮭のホイル焼きが完成し歓喜した二人だった。







こんな美味いランチはもしかすると

生まれて初めてかもしれない…

そう思った筈だ。

次に手掛けたのはカボチャのグラタン

本町バルDELISH LABOのシェフから教わり

自宅で下ごしらえをした一品







キャンプでは定番のレシピ

半分のカボチャの種をくり抜き

そのスペースにハインツホワイトソースを入れチーズをまぶし

アルミホイルに包み焚火に投げ込むだけ

そう教えたはずだったが…彼らをそれに

茹でたマカロニを入れるという工夫を見せる。







凄いぞ！M君にスタッフY！

LINEでリアルタイムで画像を見ながら

笑顔で見守る私達だったその裏側で…

スタッフYは焚火に近づきすぎ髪の毛が

一部チリチリになっていた。







やがて氷点下一歩手前の低気温が彼らを襲う

タープなしテントと焚火のみでは

耐えられるものではない事を知った彼ら







焚火の炎も心許ないものとなり







幕の中に避難する事に…

もちろん熱源などの装備は皆無

それでも天幕に包まれた瞬間

暖かいと感じたようだ。

ここで抜かりのないイケメンM君を悲劇が襲った。

「どうしてもキャンプでガリガリしたコーヒーが飲みたいんですよね」

そう語っていた彼。

購入したてのチタンシェラに淹れたコーヒーを

冷めてしまったためバーナーで温め直し

一口飲んでホッと一息、太腿に置いた瞬間だった。







化繊のひざ掛けがシェラカップの熱で溶け穴が開いた

ジーンズに丸くへばりつき「アッツ！！！」


それがキャンプ


ホッとしたその瞬間に訪れる

キャンプの落とし穴

キャンプには学びが重要だと悟った瞬間だったと思う。


撤収当日の夜感想を聞いたら

「楽しかったっすよ！」

一皮剥けた男の顔になっていたかも知れない。

そうだろうそうだろう

楽しいに決まってるって。


もう一回くらいへっぽこキャンプを経験したら

もう君達は立派なキャンパーとして

失敗と抜け目のないキャンプができるようになっていると思う

次の次あたり一緒にやろうね！




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